昨秋完成した本社屋と完成間際のラボを拝見 新井機械製作所(埼玉県深谷市)

コア技術の深掘りと新しいステージ

 昨年9月に完成した本社屋の奥に、自社機のショールームを兼ね、製品の試作もできるラボが、この6月29日にできた。米菓製造機械のシェア7割を誇る新井機械製作所は、米菓界の巨人である。国内メーカーはもとより、海外マーケットも視野に入れたそのラボは、8月内に排水などの設備を整え、顧客や新規ユーザーへのプロモーションを開始する予定だ。コロナ前までは、関連会社の新井製菓の米菓ラインを、見学用に使ってきたが、完成したラボでは、機械を稼働させて性能を体験するだけでなく、新製品の開発に向けた試作もできる。併せて、米菓製造機器に止まらず、新領域に踏みだす同社の、技術の広がりを具現するマシーンも用意されている。

新社屋とラボ完成

 昨年9月、新社屋が完成した。3年に渡ったコロナ禍が、収まろうという今春にはラボができた。

 米菓製造機械のTOPメーカーである新井機械製作所は、大正13(1949)年に、創業者で先々代社長の新井好四郎氏が煎餅製造を始めたことがスタートである。戦時下では煎餅製造を中断し、飛行機部品の加工をおこなった。戦後昭和21(1946)年に、戦時中の残余の材料を使って、台所用品や家庭用品を製造。その後、昭和24(1949)年に米菓製造を再開するとともに、人手不足を補うことから、本体が木製の「延し機」を製造。たちまち30台を販売したという。

 今日、新井機械製作所が米菓製造機械業界のTOPメーカーへと成長した原動力は、米菓と製造機械という2つの“物つくりに立脚した点にある。創業以来の「米」への拘りが、同社のDNAという所以である。

 機械製造業になって、二代目の新井進二氏(写真上)が社長に就任したのは平成21年。昨秋の新社屋完成後、6月29日には、機械を見せるショールームの要素と、新製品の試作までできる機能を持つラボを仮オープンさせた。

 「ラボは最近、取引関係者に披露したが、顧客であるメーカーへは、排水施設など、稼働できる条件を整えた8月辺りから、個々への案内やプロモーションを始める予定」と、社長は語る。

 顧客個々への案内というのは、それぞれの機械を動かして、それぞれの性能や技術を、ジックリと見てもらいたいからだ。

 以前は、関連会社の新井製菓で稼働している機械を見学してもらってきたが、実際に製造しているラインだけに不都合なこともあった。

 「ことに、この3年間はコロナ感染症の流行もあって、見学をお断りしていた。今回のラボ開設では、ラインを構成するそれぞれの機械を、ジックリ見てもらうことができる。また、機械を使って新製品の試作もできるようにした」

 稼働しているライン上の機械は、止めるわけにはいかない。ラボの完成で、稼働を見せる“見学型から、止めたり、動かしたり、調整をしたりの“体験型へと進化し、より機械の性能を実感しやすくしたのである。

 「そもそも、今回の社屋やラボの新築は、2つの要因からおこなったもの。旧社屋が老朽化していたし、時代の変化の中で、会社事業が拡大し、作業シフトも変えたので、従来の施設では手狭になっていた。従来施設では社内と社外、両面で効率が悪くなって…」

 

■新領域① ソフトスチーマー

100℃以下の「飽和湿り空気」で野菜や玄米などを加工することで、生の状態とは異なった食感・味・香り・栄養を引き出す技術

技術の裾野を拡げて…

 事務所の新築で社員のモチベーションは高まった。ラボは顧客ばかりではなく、社員研修のツールとしても活用する。

 ラボに入り自社製品のメカニズムや、特徴、性能を身近に感じ、知ることができる。また、ラボの設置に合わせて、工場のレイアウトも効率を考慮して変更した。

 「ラボの構成は、メーカーの要望や要請に応えるため、米菓製造のパイロット・マシーンが中心だが、弊社の新規領域への技術進化も見てもらう部分も加えた」

 一つは地元貢献という要素。地元産の農産品を100℃以下の蒸気で加工する『スチーマー』(写真上①)だ。新鮮な野菜や穀物などをスチーム加工することで、味や香りだけでなく、栄養面でも新たな価値が与えられるという技術だ。収穫物を加工することで新たな付加価値がプラスされる。

 もう一つは『油煙機』だ。揚げ物や、また製鉄など他産業でも、油を含む排煙は問題で、それをスクリーニングして、清浄化して排出するためのマシーン(写真下②)である。近年、環境問題は大きくクローズアップされ、それに関わる技術は成長分野とされる。

 「弊社のメイン事業は米菓製造だが、国内事情も成熟化しており、その反面で、海外からの引き合いが増えている。しかし、発展途上国のマーケットは廉価製品が主体で、現状は安さを提供できる機械で間に合う段階だ。弊社レベルの機械が必要になるのは、もう少し成熟したマーケットで、そこを見据え、今から動いている」と、新井社長。

 

■新領域② 油煙機

揚げ工程などで生じる油煙を、フィルターを介して浄化して排出する技術。環境問題が厳しさを増す現代。排煙は近隣地域の環境問題に発展しかねない。米菓や食品の揚げ工程の油煙対策に止まらず、他製造業、例えば製鉄業などでも油煙対策は必須。これからの製造業にとって重要となる領域である

時代変化を見据えて

 コロナ感染症が落ち着きだし、国内マーケットは“アフターコロナの新しい価値を求めて動きはじめている。その時代のなか、新井機械製作所も、新たな歩みを開始したのである。

 「従来技術に磨きをかけ、新たなニーズに応える。同時に、新たな領域への参入も益々、重要になる」と、米菓機械のリーディングカンパニーの自負を滲ませ、新井社長は将来展望を語った。

広さ583㎡のラボの一角。さまざまな機器を稼働させながら性能を実感でき、その機械を使って新製品の試作もできる

新井機械製作所のコア技術

米菓ラインを構成するマシーンたち