業界のアテナたち 湖池屋 新入社員のアイデアが製品に 連載①(全3回)

 ポテトチップスの量産化に初めて成功した湖池屋(都内板橋区)。『湖池屋プライドポテト』『じゃがいも心地』など高付加価値ブランドの成功をはじめ、次々と新機軸製品を世に送り出す舞台裏には、若手社員のアイデアとその思いを大切に育てる先輩社員の姿がある。これまでにないスナックづくりに情熱を注ぐ、若きアテナたちの活躍に迫る。

梅原彩加(うめはら・さやか、写真右)

2020年入社後、商品開発部1課に配属。『濃いじゃが』の前身製品にあたる『ジャガレット』を発案する。翌年R&Dセンタープロダクト開発部に異動し、新規製品プロダクト開発を担当。

 

野村紗希(のむら・さき、写真左)

2015年入社。人事部新卒採用・研修担当を経て、2017年からマーケティング部に配属。これまでに『湖池屋プライドポテト』『じゃがいも心地』等を担当。

新入社員のアイデアが製品に

 4月10日に発売した『濃いじゃが』(写真下、35g、OP)。円形のスナック菓子だが米菓を思わせる個包装、凝縮した細切りのじゃがいもから生まれるカリカリ食感、クセになるようなアンチョビオリーブの味わい、2口で食べ終えるサイズ感、1枚から得られる満足感は、他に類を見ない新ジャンルとも言えるだろう。

 生みの親は、今年入社4年目になる梅原彩加さん(以下、梅原さん)だ。入社3カ月目ながら、社長への初プレゼンで、見事製品化の切符を手に入れたシンデレラだ。「私は最初にアイデアを出しただけ。あとは先輩たちが助けてくれました」とほほ笑みながら、製品化までの経緯を話してくれた。

 

 登竜門「スナック100」

 

 商品開発希望だった梅原さんは、お菓子が大好き。就職活動でお菓子メーカー各社を回る中、楽しくおしゃべりした感覚の面接で、個性を引き出してくれそうだと感じた湖池屋への入社を決意。配属直後に、新人登竜門とも言える「スナック100」の洗礼を受けた。

 「スナック100」とは新卒・中途を問わず、まず市場に出回る100種類程のお菓子を食べ比べ、自ら新製品のアイデアを提案する独自の研修プログラムだ。製品パッケージ、味覚評価、印象に残ったことなどを記録し、今のスナック業界に不足しているものを分析。それを基に一人ひとりが新製品を考案し、マーケティング本部の会議で開催されるアイデア発表会で佐藤章社長に直接プレゼンする、真剣勝負の場になっている。

 梅原さんも入社早々、毎日のようにお菓子を食べ続けたが、思うようなアイデアが浮かばなかった。独自性を盛り込むために「過去の経験を振り返ってみたら」という先輩の助言を受け、自らの経験を振り返る。脳裏に浮かんだのは、高校時代に語学留学したイスラエルの伝統料理であるラトケスだ。

 ラトケスとは、12月に開催されるユダヤ教のお祭り「ハヌカ」で食べる料理。すりつぶしたじゃがいもをフライパンで焼いた、パンケーキのようなものだ。日本人が正月に雑煮を食べるように、現地の人にとっては馴染みのある行事食でもある。

 「じゃがいものカリカリした食感が好き」という自身の好みから「スティックポテトを固めた極薄ガレット風スナック」のコンセプトがひらめき、『ジャガレット』の名称にまで落とし込んだ。

 当時の資料を見せていただくと、形状の写真、食感、味の展開、ターゲット、内容量、価格、包装スタイルまで細かく記載がある。入社3カ月目の新入社員のものとは思えない作り込まれた資料から、製品に込められた真摯な思いが伝わってきた。

 

 独自性が評価される

 

 いよいよ、社長や執行役員が出席するアイデア発表会の日が来た。梅原さんの案は、これまでにない独自性が社長に評価され、即製品化が決定。プロジェクトチームも結成された。

 「梅原の製品にかける思いを、若手もベテランも関係なく、みんなで実現する。それが、湖池屋流のものづくりかもしれません」と話すのは、マーケティング担当の野村紗希さん。商品開発部とマーケティング部が一丸となり、発案者のイメージを大切にしながら製品化が進められていった。  

   (次号へ続く)