カンロ株式会社 村田哲也代表取締役社長CEOに聞く

トップの鍵は“4輪駆動”

 昨年100周年を迎えたカンロは、今年1月1日付で村田哲也氏が代表取締役社長CEOに就任し、新たなスタートを切った。2月7日に本社(都内新宿区)で行われた2022年決算・2023年事業発表会で、社長として初めてメディアの前に登場した村田氏は、「改革路線を継続し、不透明な事業環境に負けない企業体質を確立する」と力強く表明した。村田社長に改めて、就任の経緯や今後の具体的な方針などについて聞いた。

不透明な事業環境に負けない企業体質を確立へ

 

 村田氏は、1992年に三菱商事に入社。カンロには2021年7月に入社し、執行役員としてグローバル事業とフューチャー事業を担当してきた。当時カンロは中長期ビジョン「KanroVision2030」を発表し、コア/グローバル/デジタル/フューチャーの4事業での事業領域拡大を掲げており、村田氏はそのうちグローバルとフューチャーの2つの事業を任された。

 1年6カ月後の2023年1月に社長に就任。

 「前・三須社長が糖を軸にしたメッセージや、当社が取り組んでいる方向性を事あるごとに発信し、結果として数字も右肩上がりに推移してきた。企業が業績を伸ばし続けることは本当に大変なことだと思うので、それを引き続き自分が伸ばせるのか」という不安は、当然あった。

 それでも、カンロ入社前の2019年から2年ほど同社の社外取締役も務めていた村田氏にとって、「思い入れのあるメーカー。そういう会社を牽引していく立場になって、プレッシャーもあったが、やってやるぞ!」と覚悟をきめた。

 昨年11月1日に開催された創業110周年事業発表会で、当時の三須社長は「新社長や社員には、これまでのやり方に捉われず、さらなる発展を目指してどんどん改革していってほしい」とエールを送ったが、実際にはどんな言葉を掛けられたのだろうか。

 「全員が自分の役割を一生懸命に果たす真面目でいい会社だから、好きなようにやればいいと言ってくださった」。

 その言葉に意を強くした。

 「三須さんは数字を伴う形で結果を残してきたので、その点を意識しながら、KanroVision2030に向けた道筋をしっかりと歩んでいくことに変わりはない。私なりの新しいやり方を模索しながら、全員でゴールを目指していきたい」。

 まずは、現場の声を直接拾っていくことから始めている。インタビューした2月中旬は、工場や支店を行脚している真っ最中だった。

 「まだまだ私が知らないことや把握できていないことがたくさんある。自分自身の考えを発信することも大事だが、今は、皆がどういうことを考え、どうしたいのかということに耳を傾け、方向性を決めていく段階」だ。

 対話の中で多く聞こえてきたのは、コロナ禍におけるコミュニケーションの在り方だという。

 「止むを得ないのだが、直接の対話が少なくなってしまった。リモートの活用により、対話の頻度や密度が大きく下がったとは思わないが、本社、工場、支店、研究所といったそれぞれの拠点間での直接的な接点が減り、結果として伝えきれていない、伝わりきっていないことがあるように感じた。今後は、リアルの良さをもう一度取り戻し、伝達の濃度を上げていきたい」。

 全国行脚はこの春に一巡する予定だが、今後も定期的に続けていく。

『ピュレグミ×マロッシュレモン』

4事業体制の確立

 

 新型コロナが5月8日から5類に移行するのに伴い、経営方針や製品開発に反映される部分は出てくるのだろうか。

 「働き方に関しては、在宅勤務の体制は整っているので、リモートとリアルの比率は変わらない」と、社員の効率的な働き方はそのまま継続する。

 「商品づくりに関しては、変化は必ず起きるので、一歩でも半歩でも先をいく発想で商品やプロモーションを展開していく。もし予測した通りに変化が起きなければ、動向を見ながら見直していくことが必要。アンテナはしっかりと張り続ける」と、柔軟にスピード感を持って変化に対応していくことがポイントだと強調する。

 こうした先行き不透明な時代だからこそ、足元に左右されないという意味で企業理念体系を整理し、2月の2023年事業発表会でその詳細を明らかにした。

 2022年に制定した企業パーパス“Sweeten the Future 心がひとつぶ、大きくなる。”と、クレド(行動指針)の体現を目指すのが大きな柱だ。

 クレドは、元々ある同社の考え方としての「創意工夫」「信義誠実」「百万一心」の3点に対し、時代に即した解釈に変えた。

 「創意工夫」は、変化を恐れず、自ら考え、新たな価値をつくり続ける。

 「信義誠実」は、誠実な言動を通じて、すべてのステークホルダーからの信頼に応える。

 「百万一心」は、多様性や専門性を受け入れ活かし合い、パーパスに向かって社員、会社ともに成長する。

 「企業理念体系を社内外にしっかりと浸透させ、社員1人1人が無意識にパーパスとクレドにふさわしい行動ができる状態を目指す」

 もうひとつ注力していくのが、「4事業体制(4輪駆動)の確立」だ。

 「コア事業に加え、今後はグローバル、デジタルコマース、そして、従来事業に捉われない自由な発想で展開するフューチャーデザインの4事業で発展を目指す」。

 「現在はコア事業のみの1輪車の状況だが、グローバル、デジタルコマース、フューチャーデザインの3つを形にして、コア事業との2輪車として前進していくことが当面の目標。最終的には、4つの事業がそれぞれ機能する“4輪駆動”体制で世の中の変化に対応し、厳しい環境を乗り越えていきたい」。

(続きは23年春季特別号46頁へ)

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