M&Aから見る製菓・製パン業界の未来⑩

株式会社日本M&Aセンター

食品業界専門グループチーフ 高橋 空

菓子工場の論点と対応策

 菓子メーカーにおいて、中堅・中小企業ではビジネスモデルそのものよりも、工場そのものに様々な問題を抱えているケースがある。今回は実際に当社が担当した案件で起きた工場の代表的な論点について3つほど解説したい。

 1つ目が、建物の建築確認申請がなされていないケースだ。そのような建物は、日本国内では非常に多く存在しており、築年数が古い建物であれば、決して珍しいケースではない。

 しかし、建物の建築確認申請がなされていない建物は違法建築と認定されてしまう。建築確認申請は、後から取得し直すということができないため、建物を取り壊して再建築しない以上、適法な建物とすることはできない。そのため、最低限、建蔽率や容積率に違反がないことを確認し、1級建築士などの専門家に当該建物を使い続けることに問題がない旨の確認書などを作成して対応してもらう。そうすることで、最低限のリスクを回避することが出来る。

 2つ目が、建築確認申請時の図面と現状の仕様が大きく違い、検査済証が発行されていないケースである。実際にお会いした企業において、建築確認申請を行った際の図面では、2つある建物はそれぞれ独立していた。だがその後、工場のラインや製造工程の効率化のため、壁を壊して一つの建物に改築していた。それにより500平方メートル超の建物になってしまい、建物の耐火基準を満たさない建物に陥ってしまった。

 建築確認申請時の図面と現状が異なるため、当然違法建築となるが、このような場合でも、通常の業務で問題になることはない。経営者も問題意識を持っていないケースは少なくない。

 上記のような場合、改めて一体化した建物に外壁を付けて別個の建物にするか、耐火基準を満たす仕様に改修する工事を実施するかの2つの選択肢が想定される。コスト的には、後者の方が安価に済むことが予想されるが、本質的な改善にはならないため、費用をかけて、建築確認申請図と同様の間取りに改修工事を行うことが一般的である。

 3つ目が、HACCP(ハサップ)が未取得、又は、取得するのに相当の費用をかける必要があるケースだ。昨今の食品工場の運営では、工場規模の大小を問わず、HACCPの取得は義務化されている。株式譲渡時点で万が一、HACCPが未取得であっても、譲渡完了後には必ず譲受側で取得することが想定される。ただし、そもそもHACCPが取得することを前提に作られていない工場だと、取得するための改修工事で、多額の費用を要するケースが考えられる。

 その場合、HACCPを取得するコストを株価から差し引く交渉をする必要がある。しかし、全額売主に負担させることは難しい場合もある。実際に工事を行うことで、建物そのものの資産価値も向上するので、必要コストとその後の資産価値の増加分を勘案し、金額面の折合いを付けることが多い。

 このように、菓子メーカーにおける工場の論点は多数存在し、M&Aがブレイクしてしまう要因になるため、現状把握と改善を出来るだけ早期に対応していくことが重要である。

たかはし・そら

1991年9月、神奈川県生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、株式会社船井総合研究所にてフードビジネス専門のコンサルティングに従事した後、日本M&Aセンターに入社。食品業界専門グループにて、食のベンチャー企業のイグジット支援から創業100年を超える老舗企業の事業承継支援まで幅広くM&A支援に携わる。