チロルチョコのベトナム工場(ドンナイ省・アマタ工業団地)の竣工式が、2月15日に現地で開催された。5年越しとなった同工場建設のプロジェクトは、2019年7月に着工し、2020年6月に完成したもののコロナ禍の影響を受け、2023年1月からの稼働となった。
新工場の敷地内で開催された竣工式。日本とベトナムの関係者が多数出席
竣工式の挨拶に立ったチロルチョコならびに松尾製菓代表取締役社長の松尾裕二氏は、「建物の建築および設備機械の移行が終わっていたにもかかわらず、人の移動が困難だったため2年以上設備設置が遅れてしまったことを、この場を借りて深くお詫び申し上げる」と述べ、関係各者の理解と寛大な対応について感謝の意を表した。
その上で「2年以上遅れての稼働となったが、松尾製菓が創業120周年というタイミングで竣工式を迎えられることに、何か運命的なものを感じる」と語った。
チロルチョコが海外初となるベトナムに工場を建設した背景には、2つの大きな要因がある。ひとつは日本市場における課題の解決である。
チロルチョコを製造する松尾製菓の本社工場(福岡県田川市)は、ここ数年人手不足に悩まされてきた。それに伴う生産キャパシティによって、年間の売上や製品ラインアップを絞らなければならない状態が続いている。
ベトナム工場はこの課題を解決するものだ。チョコレートの成型から包装の工程を担い、それを本社工場に送ることで、全体の生産キャパシティを上げていく狙いがある。
ベトナム工場でつくられるのは「ミルク」「ビス」「アーモンド」の3種のみで、これらはチロルチョコの定番であると同時に比較的作りやすいアイテムになる。それらは100%本社工場に戻され、バラエティパック/ボックスなどにも入る。その分、本社工場では新機軸の製品づくりに取り組むことができる。ただ単に売上を上げたいというよりは、「やりたくてもできなかった新しい製品を、もっと世の中に出していきたい」という思いがあると松尾社長は語る。
もうひとつは、ベトナムを中心としたアジア市場の開拓だ。ベトナム工場の施設内は、先に触れた3種の生産ラインと同じ規模の空きスペースを設けている。近い将来、これをアジア市場向けとして稼働させたいと松尾社長は考えている。
「松尾製菓120年の歴史のなかで、初代が起業し、2代目がチロルチョコを商品化、3代目がCVSに活路を見出すなどしてチロルチョコを全国区に育て上げた。4代目の私は、代々育ててきたチロルチョコというブランドをアジアに広げていきたい」と、自らの使命について語る。
考えてみればチロルチョコが商品化され、3つ山から1つ山になった頃の日本は、高度経済成長期だった。平均年齢が31歳と比較的若く、経済成長著しいベトナムの今の姿と重なって見える。
チロルチョコベトナム工場
敷地面積1万5000㎡、建築面積4053㎡、延べ床面積4623㎡
数ある国の中からベトナムを選んだのは、フィーリングが合ったからだと松尾社長は言う。アジアに工場を建設するにあたり、インドネシアやタイ、フィリピンなども視察したが、ベトナムの雰囲気や国民性に親近感を抱いたのが決め手になった。
チロルチョコのベトナム工場は、ホーチミンの中心部から約1時間強の場所にある。ホーチミンの平均気温は26℃。年間を通じて気温差が少ない。竣工式当日は33℃と、肌がじりじり焼かれるような日差しの強さである。
生産エリアではこうした環境に対応するために、断熱や結露、虫の侵入などの対策に気を使ったと、プロジェクトリーダーでチロルチョコベトナムの代表取締役社長である中村健氏は語る。設備設計を担当したキリンエンジニアリング(横浜市)が、地元の建築業者と協力して建物も設計した。
松尾製菓製造部係長の菅貴芙美氏とチロルチョコベトナム製造部課長のファン・タイン・ニャン氏は、工場の概要について次のように述べた。
「ユーティリティエリアは、工業用水を自社の給水処理設備でさらに濾過し、日本水準の水質で工場に給水している。倉庫エリアは搬入口をドックシェルター方式にして搬入時に害虫の侵入を防ぎ、コンテナの温度管理を可能とした。常に体を衛生的に保てるように、福利厚生エリアには男女各ロッカーにシャワーを完備する」
感謝状を贈呈されたキリンエンジニアリング代表取締役社長の吉川孝宏氏は、「チョコレート製造設備は日本のメーカーのものを、ユーティリティ設備はベトナムを中心とするメーカーに日本の技術を注入した。ベトナムと日本の協力会社ならびにわれわれの施術を最大限活かすことで、高品質な製品を製造できるプラントになったと自負している」と語った。
コロナ禍など、さまざまなトラブルを乗り越えて、ようやく生産を開始したチロルチョコの新工場。現在はテスト段階で、今秋くらいにはここで生産された製品が、日本市場に出回る予定だという(春季特別号で詳報掲載)。