M&Aから見る製菓・製パン業界の未来⑨

株式会社日本M&Aセンター

食品業界専門グループチーフ 高橋 空

M&A成功のカギは手順

 M&Aにおいて手順を守ることは重要である。この手順を一つとして飛ばしてはいけない。一つひとつ正しい順序で進めていかないと成約後のトラブルに発展してしまうからだ。ここではM&Aの正しい手順について解説したい。

 ①事前相談:M&Aとは何か、どのような事例があるのか、仮に進める場合は候補先が出てくるのか、候補先の数はどれくらい出てくるのか。簡易的に自社の株価を評価し、譲渡時のイメージを持つことになる。M&Aは事業承継の一環であり、一つの手法に過ぎない。そのため、将来を見据えてM&Aだと、どう進んでいくかという点を想像していく。

 ②委任:事前相談を経て、正式にコンサルタントに相手探しを依頼する提携仲介契約を結ぶのがこのフェーズである。基本的に専任の契約を結ぶのが一般的で、安心感と成約率も上げることにつながる。

 ③案件化:これが前半で最も重要なフェーズである。案件化とはM&Aを候補先に提案できる段階に進めるための提案書作りと、評価書作りを進める。このフェーズで、どれだけ自社や事業を理解してもらえるか、M&A交渉のリスクの洗い出しができているかが非常に大切である。

 ④相手探し:まずロングリストと呼ばれる提案候補先リストを作成していく。コンサルタントがこれまで蓄積した買収ニーズをもとに、提案したい企業の候補を募っていく。一般的には1案件に対して100社以上の候補先が初期的に出てくる。次に提案フェーズに入っていくと、まずは譲渡側から許可の得られた企業にノンネームといわれる書面で提案をし、候補先企業に興味関心度を仰ぐこととなる。その中で興味を持っていただいた企業と秘密保持契約書を締結し、本来の提案書を提示していく。提案書に記載されている条件等のすり合わせを済ませて初めてトップ面談を開催する。トップ面談では条件交渉等をする場ではなく、あくまで互いの経営者の人となりを知り、考え方や会社文化を知る場である。

 ⑤基本合意:両社の条件合意がなされ、トップ面談での印象も良いものであれば、結婚で言うと婚約に当たる基本合意の締結に進んでいく。これは初めて譲渡企業と譲受企業が直接交わす書面となる。

 ⑥買収監査:買収監査は譲受企業が最終契約締結前に自分の目でこれまで共有された情報に大きな差異がないか確認する機会だ。粗探しをするのではなく、M&Aが成立した後の引継ぎをスムーズにするため事前に全容を把握しておくというものである。

 ⑦クロージング:買収監査でしっかりと最終確認し、相違点がない旨を確認した後に最終契約書を締結する。一般的には最終契約書の締結日と決済日(株式譲渡日)は同日日で行うことがセオリーであるが、クロージング条件がある場合、例えば不動産COC(Change of control)対応や主要取引先へのあいさつ、社内のキーマンへの開示等、個別で特別に対応しなければいけないケースがある。

 このように相談からクロージングまで、様々な抑えるべきポイントがあり、微妙な認識のずれなどが大きなトラブルに発展しかねない。ぜひともこの手順は守っていただき、正しく価値のあるM&Aを結んでほしい。

 

たかはし・そら

1991年9月、神奈川県生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、株式会社船井総合研究所にてフードビジネス専門のコンサルティングに従事した後、日本M&Aセンターに入社。食品業界専門グループにて、食のベンチャー企業のイグジット支援から創業100年を超える老舗企業の事業承継支援まで幅広くM&A支援に携わる。