M&Aから見る製菓・製パン業界の未来⑥ 株式会社日本M&Aセンター

食品業界専門グループ

グループリーダー 江藤恭輔

秋の菓子業界M&A速報

 2022年9月から11月についても、菓子業界で多くのM&Aが実施された。その中で、この期間に行われた4案件を紹介していく。

 まず1件目が、ほっかほっか亭などを展開するハークスレイが落花生、ナッツ、豆菓子などの製造販売を行う稲葉ピーナツ、菓子・珍味類などの販売を手掛けるアイファクトリーの2件を11月30日付でグループ化する事例。買収総額は2件で43億円を予定しており、菓子業界のM&Aとしては近年稀にみる規模のM&Aとなる。稲葉ピーナツは創業1952年、売上高約78億円の落花生業界では最大手の企業であるが、その様な規模の会社であってもM&Aで上場企業グループ入りするという事実に、業界は騒然となっている。

 続いて2件目が9月に実施されたベーシック・キャピタル・マネジメントによる、チョコレート菓子の製造販売を行うチョコレートデザインの買収事例である。チョコレートデザインは2000年創業、「VANILLABEANS」ブランドを軸に、複数のチョコレート菓子の製造販売、EC販売事業などを展開していた。ベーシック・キャピタル・マネジメントは過半数の株式を取得することで、管理体制の整備や生産体制の増強を通じて、同社の成長を加速させる。

 3件目が、9月に実施されたジャフコが運営するPEファンドの投資先であるPAPABUBBLE JAPAN HDが、平塚で老舗スイス菓子「バッハマン」を展開するワイルの事業を譲り受けた事例である。ワイルは、1897年創業の老舗「コンディトライ・バッハマン」から暖簾分けを受け1976年に創業、バウムクーヘンの製造技術を有していた。PAPABUBBLE JAPAN HDは事業ポートフォリオの拡充を進め、菓子製造技術の向上と職人集団の育成を目指す。

 4件目は、永谷園ホールディングスの傘下で、シュークリーム専門店「ビアードパパ」を展開する麦の穂HDのシンガポールにおける全額出資子会社MUGINOHOGROBALPTE.LTD.によるシンガポール証券取引所上場の飲食チェーンキムリーの全額出資子会社キムリー・フード・プロダクツの買収事例である。キムリー・フード・プロダクツは老舗洋菓子店「リヴ・ゴーシュ・パティスリー」を大型商業施設を中心に同国で7店舗展開しており、麦の穂HDは同国における多店舗展開のノウハウや製造面での相乗効果を狙っていく。

 このように菓子業界においても、国内企業が海外の企業を買収する事例や、業界でも有数の大手が上場企業グループに入る事例、ファンドによる資本の受け入れを行う事例など様々なM&Aが盛んに実施されている。

 これらの事例から分かる通り、M&Aは最早他人事ではなく、経営者として会社を成長・存続させて行くための経営戦略として、前向きに検討するべき手段の1つとなって来ていると言えるだろう。

えとう・きょうすけ 

青山学院大学法学部卒業後、埼玉りそな銀行にて法人営業を経て2015年に日本M&Aセンターに入社。食品業界を専門として製造業、小売業、外食業などのM&Aに取り組む。2017年には丸亀製麺を展開するトリドールHDと「晩杯屋」のアクティブソース、「ラー麺ずんどう屋」を展開するZUNDのM&Aを、2022年には清水屋食品と竹下製菓のM&Aを手掛けた。