M&Aから見る製菓・製パン業界の未来② 株式会社日本M&Aセンター

チーフマネージャー 食品業界専門グループ

グループリーダー 江藤恭輔 氏

伝統の技、地域の雇用、優れた菓子文化をM&Aで繋ぐ

 「日本の食文化は世界一素晴らしい。」様々な国に出向き滞在して実感した、国内にいるだけでは分からない事実である。また、毎年年末に発表されるミシュランの星獲得の飲食店の数が、都市別にみるとTOP5の内、ミシュランの本拠地であるパリを抑えて1位が東京、3位がパリに僅差で京都、4位大阪と、TOP5を独占している事実や、「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録された実績、コロナ禍前は日本の美食を求めて数多くの外国人が日本を訪れていた事実が、日本の食のレベルが世界一であることを裏付けている。

 一方、大都市圏に本社を構えて発展することが多いIT企業や物流企業、建設企業などと違い、食品関連企業こそ地方に優れた企業が多いのも、同業界の特徴と言える。また、地域ごとに独自の食文化を形成し、地域活性の牽引力になっているのも、やはりその地域の食品企業であろう。例えば、私の生まれ故郷である宮崎では、和牛や地鶏、芋焼酎などが全国的にも有名であり、熊本の馬肉や福岡のもつ鍋、大分の鳥天、鹿児島の黒豚など、九州だけでも枚挙に暇がない。同様に菓子業界においても、北海道の白い恋人や岩手の南部せんべい、宮城のずんだ餅、栃木の御用邸チーズケーキ、埼玉の五家宝、新潟の柿の種、静岡のうなぎパイ、三重の赤福、広島のもみじまんじゅう、鳥取の因幡の白うさぎ、佐賀の丸ぼうろ、長崎のカステラ、熊本の黒糖ドーナツ棒など、その地域の食文化を長年支えてきた企業も多い。それらの企業は、その地域になくてはならない存在である、地方創生の大きな鍵を握っていると言っても過言ではない。

 このように長い歴史を持ち、その地域の文化や雇用を守って来た数多くの菓子メーカーが、まさに今、後継者不在により廃業の危機に直面している。

 日本の現在の制度では、企業の株式は①親族への承継②従業員への承継③第三者への承継-----の3つの選択肢があるが、様々な問題から、親族・従業員への承継は現実的に難しい場合が多くなっている。そのため、3つ目の選択肢である第三者(企業)への承継、いわゆるM&Aを選択する企業オーナーが年々増えてきている。M&Aを実現することで、企業の存続という根本的な課題のみならず、株式を譲り渡し他社と提携することによって、継続的な発展という課題に対する解決の足掛かりをも掴み取る事例も増えている。

 我々は、このように地方に点在する優れた食文化、伝統の技、地域の雇用をM&Aを通じて守り、更なる発展に向けた機会を提供することを使命とし、様々な中小企業のオーナーと向き合っている。M&Aという手段を多くの人に正しく理解して頂ければと思う。

 

えとう・きょうすけ 青山学院大学法学部卒業後、埼玉りそな銀行にて法人営業を経て2015年に日本M&Aセンターに入社。食品業界を専門として製造業、小売業、外食業などのM&Aに取り組み、2016年に食品業界専門グループを立ち上げ。2022年には岡山で60年以上の歴史を誇る「生クリームパン」を製造販売する清水屋食品と、九州で絶大な人気を誇るアイス菓子「ブラックモンブラン」を製造販売する竹下製菓の資本提携を実現させる。