M&Aから見る製菓・製パン業界の未来① 株式会社日本M&Aセンター

食品業界専門グループ チーフ 高橋 空

選択を迫られる重要な時期

 全日本菓子協会によると、製菓・製パン業界の2021年の小売金額ベースでの市場規模は5.1兆円とされている。それに対して業界内売上高上位10社の市場占有率は、51%と約半数のシェアを持っている。この上位企業の高い占有率を引き起こしている要因の一つとしてM&A(Mergers and Acquisitions=企業の合併買収)が挙げられる。

 製菓・製パン業界のM&A件数は、ここ数年の傾向として非公表の件数も含めると年間40件~60件と推測されている。この数値は食品業界全体のM&A件数の15%程度を占めており、製菓・製パン業界は食品業界のM&Aをリードしているといっても過言ではない。実際に当社内の食品製造業における過去実績においても、全体の約35%と高いシェア率を誇っている。

 日々盛んにM&Aが行われている製菓・製パン業界は、業界再編真っ只中にあると言えるであろう。一般的に、日本の各業界のライフサイクルは4つに分けられる。導入期から成長期、成熟期、衰退期という流れで再編が進む。これは、その業界の上位10社のシェアの合計が、それぞれ10%(導入期)、50%(成長期)、70%(成熟期)、90%(衰退期)になったときを基準にステージを分けている。最終的には、3社ないし4社に集約されていく。

 M&Aの環境は市場の上位10社のシェア50%を境に大きく変化する。市場のシェアが50%以下の場合においては、譲渡企業側は相手先が多く、好条件での交渉が可能であり、譲受け企業側は適切な情報取集を行えば、M&A案件が少ない中で他社に先駆けた優良企業のM&Aが可能となるため、多くの会社にとってM&Aのチャンスがあると言える。

 一方で市場のシェアが50%を超えてくると、譲渡企業側は、相手先が急減、必然的に中小企業は低い条件での交渉になる可能性が高くなり、譲受け企業側は理想とする相手が限られてくるため、M&Aをできる会社が限られてくる。

 製菓・製パン業界は今まさに業界再編のピークにあり、最もM&Aの活性化する時期にある。2020年にカルビー㈱が「㈱ポテトかいつか」を完全子会社化したように、大手企業が中堅企業、特に地域でナンバー1の実力を持つ企業との提携を積極化させ、業界内でのポジション争いをしていく。中堅企業にとっては、将来の構図を想像しながら、自社がどの企業群に属していくのかの選択を迫られる重要な時期ではないだろうか。

 製菓・製パン業界がこれからの時代にどうあるべきかという「未来」を作るために、1人の経営者、1社単独ではできない世界観をM&Aを使って切り開いていって頂きたい。

 たかはし・そら 1991年9月、神奈川県生まれ、青山学院大学経営学部卒業後、株式会社船井総合研究所にてフードビジネス専門のコンサルティングに従事した後、日本M&Aセンターに入社。食品業界専門グループにて、食のベンチャー企業のイグジット支援から創業100年を超える老舗企業の事業承継支援まで幅広くM&A支援に携わる。