業界のアテナたち Part Ⅳ 株式会社栗山米菓 営業本部関東第一営業部 駒形祐子部長

 古代アテネの守護神であるギリシャ神話の女神アテナは、現代の企業社会においてリーダーシップを発揮する女性たちと重なる。シリーズ「業界の女神(アテナ)たち」では製菓業界において切磋琢磨されてきた女性にスポットを当てる。第4回目は栗山米菓の駒形祐子部長が登場。

男社会の「壁」を突破‼

 初の女性セールス

 

 関東のある問屋の社長から「栗山さんには女性のセールスが多いよ」と聞いたことが、今回の取材のスタートになった。

 栗山米菓には、関東圏の営業を担う二つの営業部がある。その第一営業部の駒形祐子部長は、得意先では“親方”とか“宴会部長”と呼ばれ、親しまれているらしい。

 愛称から抱いた記者の先入観とは程遠く、駒形さんは小柄で、可愛らしく、キビキビした女性だった。入社して14年を迎える。その間に結婚し4年が経つが、猫をかぶって「入社2年目です」と、いわれたら真に受けそうである。

 インタビューの受け答えは軽やかでスピーディだ。営業で磨いたスキルだろう。当方の質問には、先ず「確かに…」と、柔らかく受けてから、答えはじめる。笑顔とその間が、なんとも心地よい。

 入社の動機は「関東で地元(新潟)に貢献できる仕事がしたい」と考えていたからだという。2008年の4名の採用のうち3名が女性で、その中のひとりだった。

 駒形さんが入社したこの年は、栗山米菓がセールスに女性を本格的に採用した元年である。「営業に出たての頃は、他社でも女性はほとんど見かけなかった」ので、珍しさがプラスにもなったが、半面では、まだまだ男社会の名残りがあった当時、“女性”ゆえの試練も経験してきた。

 運命の「糸」

 

 大学を卒業し、駆け出しセールスとして、先輩とともに地場のスーパーなどを回った。営業職の採用だったが「当初は特に好き」というわけではなかっ

た。バブル崩壊後に続いた就職氷河期世代だが、入社した2008年の景気はさほど悪くはなく、就職先の選択肢は幾つもあったという。

 「当時の私には、お菓子業界に対する特別な思いは特になく、メーカー志望で幾つもの会社を訪問しました。ただ漠然と地元に貢献できる活動がしたいという気持ちと、卒業後の社会人生活は関東で、という願いだけはありました」

 その駒形さんを引き付けたのは看板製品の『ばかうけ』だった。

 「米菓はお菓子の中でも、地味なイメージでしたが(笑)、これは知ってるよ」と、応募へと肩を押された。今でもチョコパイやビスケットなど、甘いお菓子好きだが『星たべよ』は、小さなころから食べてきたお気に入りであった。

 「応募前にホームページを見ていたら、その『星たべよ』の発売が私の生まれた年と同じだ!」と知り、強い“縁”を感じた。その縁が入社へと導いてくれたようだ。

 春4月、晴れて社会人生活がスタートしたが、学生の頃にテレビのドラマなどを観て、抱いていた「カイシャ」や「オシゴト」と、現実とのギャップの洗礼を受ける。配属先の大宮は、オジサマを含め男性ばかり。緊張し、戸惑う若い女性社員と、どう扱ってよいのか分からない男性陣。戸惑いの微妙な空気のなかで、駒形さんの社会人の日々が始まった。

 

 これ、ヤバいかも

 

 ショックを受けることはたびたびあって、例えばトイレが当初は共用だった。

 「テレビのなかのOLさん達の世界とは違うんだなァ…正直、最初は、これヤバいかも! って思いました(笑)。先輩について商談に行っても、順番は食品メーカーさんの後の後みたいな扱いだったり、交渉も“値段”中心で、商品特性やメーカーの思いも通りにくい」という現場で、もどかしい思いを体験した。

 お菓子の価格は安い。数字で割りだす利益は僅かなものだ。その薄い利益をめぐっての営業の攻防である。武器は電卓。素早く数字を弾きだし、切り返す。

 「それが癖になって、いつでも電卓を持っていますね。気づいたら、ホラッ」と、電卓をかざす笑顔がかわいい。しかし、新人時代の攻防の場では、その笑顔も役に立たなかったようだ。

 「業界でもあの頃は、女性の営業がほとんどいなかったので、お客様のなかには“女の子はイヤだ”とか“担当替えてくれ”なんていわれたこともありましたよ」と、笑顔で語るが、面と向かってお前じゃ話にならないと、露骨にいい放たれたこともあった。ムカついたでしょう? と問うと、

 「若いし、知識もないから仕方ないかァ…反発というよりは、フツーに凹みましたね。同期に男性もいたし、営業という仕事は男性の方が向いているのかなァと、悩んだこともありました」けれどと、応じる笑顔には余裕がある。

 結構、芯は太そうで、そこがニックネーム“親方”の由来かもしれない。きゃしゃな駒形さんだが、中学生時代は、女子柔道界のレジェンド谷亮子(旧姓・田村)に憧れ、柔道部で頑張った過去もあるという。

荒っぽい言葉を浴びつつも、やがて先輩のアドバイスを得て、駒形流の頑張りで難局を突破してゆくのである。     

          (次号5534号へ続く・全3回)