イメージ戦略 キャラクターは何を変える!?⑥ 山芳製菓 「わさぎゅ〜」

予想を上回る大反響

 誰もが驚いた衝撃のニュース。山芳製菓『わさビーフ』の顔として長年親しまれてきた「わさっち」が引退し、代わりに全く新しいキャラクター「わさぎゅ~」が登場したのだ。このニュースは瞬く間にSNSを駆け巡り、良くも悪くも大いに話題となった。

■「わさっち」は引退

 1987年の登場以来、少しずつ姿・形を変えながら33年間愛され続けてきた「わさっち」がいなくなる⁉

 このニュースが8月18日にリリースされるやいなや、「ツイッターやYahooの検索トレンド1位になるほどの大反響があった」(同社)という。だが、その大半がネガティブな意見。「正直なところ、わさっちにそれほど愛着を持ってくださっていたんだと驚きました」と振り返る。

 発表の1~2週間前に、もしかしたら多少の炎上はあるかも知れないと、傾向と対策はまとめておいた。だが、「勝手に変えるなんて!」「山芳製菓は何してくれるんだ!」とう激しい反応には、たじろいでしまった。

 実は、「わさっち」の可愛さとポップさに合わせた引退のストーリーを動画でアップすることも考えていたが、「動画公開がマイナスに働くことを懸念し撮影自体を見送った」という。

 「わさっちを変えないで欲しいという強い思いがそういう表現になって出たのだろうと感じた。消費者にとっては、それだけインパクトが大きかった」

 それに、「我々は悪いことをしているわけではない。こういった反応は、“わさっちがとても愛されていた証拠。それには感謝しかない」と気を取り直した。

 今回のキャラクター交代は、『わさビーフ』の約3年ぶりのリニューアルの一環であり、最初から“新キャラクターありきではなかった。あくまでも、キャラクターを含めてのパッケージデザインの変更だ。

 これまでにも『わさビーフ』を随時リニューアルしてきたが、消費者にはそのことがなかなか伝わらないのが現状。変わったことにさえ気付かれないこともある。変え過ぎると見つけてもらえないが、変わったことが分からなければリニューアルにならないというジレンマが、これまでにもあった。

新『わさビーフ』

標準小売価格:130円 内容量:55g

◎味

 ・現行品をベースにわさび感をアップ。

 ・わさびのシャープな刺激感を表現。

 ・キレの良い後味。

デザイン

 ・ユーザーに馴染みのある、現行品のデ 

   ザインベースを踏襲。

 ・リボンやロゴを改良し、 より店頭で映

   えるデザイン。

キャラクター

  シンプルな造形で描く、ゆるさ・かわい

  さ・親しみやすさのある、わさビーフら

  しいキャラクター。 

■ 西野亮廣氏デザイン

 社内で進めてきたリニューアルのやり方を変えていこうと、“外部の発信力のある方の力を借りることにした。そこで白羽の矢を立てたのが、西野亮廣氏。漫才コンビのキングコングとして知られる一方、『えんとつ町のプペル』など数々の絵本や小説がベストセラーとなっている絵本作家でもある。

 その西野氏にリニューアルのサポートをオファーしたところ、自身も「わさビーフを良く買っている」ということで快諾してくれた。

 西野氏にお願いした理由について、同社は「絵本作家というクリエイターの面を持ちながら、ビジネスの世界では、マーケティング的な目線で消費者に物を届けるという戦略家としても活躍している」と説明する一方、「西野さんは、絵本やイベントなどを〝共創〟している。そこが他の誰とも違うし、ファン作りにも繋がっている。当社もそうなれたらという憧れもあった」という。

 新たなパッケージデザインは、西野氏本人が監修。打ち合わせを進める中で、キャラクターも変えていこうという流れになった。

 さらに、新たな味の方向性については、西野氏が主催するオンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」のメンバー有志と、グループワーク形式の会議で議論を交わした。同研究所は、メンバー6万9000人(8月時点)を誇る国内最大のオンラインサロンだ。

 

 

【プロフィール】牛のかたちをしたわさび好きの妖精

 

性別:男の子。

生年月日:9月1日。

年齢:人の年齢だと7歳くらい。

性格:マイペース、のんびりや。天真爛漫な一面もある。

趣味や特技:散歩、寝ること。どこにわさびがあるかすぐわかる。

くせや習慣:わさビーフのちょうちょを追いかけること。


■ 少しずつ浸透

 こうして完成した新しい『わさビーフ』は9月1日に発売され、わさびをイメージした緑色の牛のような?かわいい「わさぎゅ~」がデビューした。

 「わさぎゅ~」は、シンプルな形で誰もが描きやすいこともあって、親しみを感じられる。パッケージは、従来からの白と緑がベースのデザインを踏襲しながらも、ロゴは視認性が高く、柔らかい印象の文字に変えた。

 「わさぎゅ~」の鼻の穴は、ツ~ンとしたわさびが鼻に抜ける“ヒクヒクとした感じを表現。よく見ると、『わさビーフ』の「ビ」の濁点が、「わさぎゅ~」の鼻の穴と同じ形になっている。

 「わさぎゅ~」が追いかけている蝶々は、ポテトチップスを4枚重ねたもの。無邪気に昆虫を追いかけてしまうのは、いかにも7歳くらいの男の子らしく、微笑ましい。実は細かい設計が仕掛けられている。

 当初は「わさっち」を惜しむ声が圧倒的だったが、徐々に「わさぎゅ~」の可愛らしさに気付いた人々が増え、反応は上々だ。

 さて、「わさっち」がいなくなり、仲良しだった「わさ次郎」や「わさび先輩」はどうなるのか。

 「随時お別れです。男気シリーズには、新たなキャラクターが登場します。わさび先輩は、実写版になりました」

 わさび先輩が実写に⁉よ~く見ると、パッケージの裏面に、わさび先輩ならぬ本物のわさびが2本、ドンと写っている。これも西野氏のアイデアだ。

 「ロングセラーの商品は、過去に色々な取組みを実施してきており、徐々にやる事が狭くなってしまうので、どこかで思い切り変えることが必要。変化があって改めて、手に取ってもらえる。それが本来のリニューアルの意味だと思う。今回は、入口から情報が拡散されて、発売前から知っていただいたのが大きかった」という。

 「わさぎゅ~」が皆に愛される日は近い。

ノベルティグッズのキーホルダー(右)とクリアファイル