越後製菓『ふんわり名人きなこ餅』15年の歩み

“本物”を以て復活せよ!

 驚きの口どけと濃厚な味わいで一世を風靡した『ふんわり名人きなこ餅』は2020年、発売15周年を迎えた。製麺・製餅・製菓の3本柱を持つメーカー・越後製菓(新潟県長岡市)の看板製品である。その歩みは、決して順風満帆ではなかった−。

 『ふんわり名人』は近年、“本物”を追求し続けている。パッケージの変遷(写真上4点。右はじから時系列順)を見れば明瞭だ。初代では「ふわっととける!」と食感を強調していたが、それ以降は「和三盆」「国産もち米100%」「北海道大豆」と原料の改良を謳っている。

■長岡発祥の米菓

 「正解は!」で始まるキャッチコピーで老若男女に親しまれる越後製菓。その本拠地は、新潟県中南部・長岡市である。

 県下第2位の人口27万人を擁する同市は、江戸時代には長岡藩の城下町として栄えた。しかし、戊辰戦争(1868年〜1869年)と長岡空襲(1945年8月1日)で2度に亘って壊滅的被害を受けた。災禍に遭うたびに不撓不屈の精神で復興を遂げてきた。

 「米百表」。長岡の精神的支柱だ。戊辰戦争で焼き尽くされた長岡に三根山藩から送られてきたのは百俵の米。長岡藩大参事の小林虎三郎(1828年〜1877年)は、これを分配することなく売却し、その資金を基に国漢学校の整備に充てた。「まちとは、人が興すもの。まちづくりは、人づくりから始まる」。目先のことよりも未来を見据えることに重きを置くこの思想は、長岡に深く根付いている。

 1880年代後半の石油発掘に伴って長岡は機械産業が発達した。現在も北陸工業地域の一角として精密機械や工作機械の製造企業が多い。また、コシヒカリ発祥の米所であり、全国的に類を見ない米菓の郷だ。長岡発祥の米菓には、あの「柿の種」がある。

 そして、『ふんわり名人きなこ餅』もまた。搗き立ての餅を想起させる口どけは、米菓の常識を超えたもの。発売15年を迎えた『ふんわり名人』の爆発的なヒットと挫折、そして復活には不屈の長岡精神が見えるようだ。

 

■理想は“搗き立て餅

 「1990年代後半まで当社には“独創的な米菓がなかった。そこで検討を重ねたが、なかなかよいアイデアが出ない。頭を切り替え、原料が同じお米であるお餅からアプローチした。お餅で最も美味しいのは搗き立て。その魅力はとろけるような食感にある。それを米菓で再現したのが『ふんわり名人』。製餅も手がける当社だからこそ創ることができた米菓だ」と星野一郎会長は話す。

 開発は困難を極めた。米菓の口どけを決定するのは糊化(こか)度である。糊化とは、もち米を杵搗きすると澱粉が加水加熱され糊状になること。搗き立てのお餅の糊化度は実に90%。一方、通常の米菓は8%に過ぎない。米菓の糊化度を極限まで高めるための挑戦が始まった。

 米菓の糊化度を90%に近づけるためには、おかきの製造方法を根本的に再考する必要があった。試行錯誤の日々は10年以上続いた。その間に費やされた時間とエネルギーは膨大なものだったろう。途半ばで諦めなかったのは、「米百表」のスピリッツだ。

 分子構造に基づいた新しい製造システム「MBRC-PS21(Molecule-Baced Rice Cracker Production System 21)」を構築することで、搗き立てのお餅に限りなく近い糊化度を持つ米菓生地の開発に成功した。味付けに「きなこ」を使うことはすぐ決まった。「昔、おばあちゃんが作ってくれたきなこ餅の味を再現する」という趣向である。2005年、『ふんわり名人きなこ餅』が完成した。

 「正直に言えば、『ふんわり名人』が市場に受け入れられるかどうかわからなかった。社内にも“あんな柔らかい米菓が売れるわけないという厳しい意見があった。でも、非常に画期的なものだから評価が分かれるのだ、と商品化を押し通した。チャレンジだった」(星野会長)。

 『ふんわり名人』は、大方の予想を超えてヒットへの階段を登り始めた。片貝工場長の小林康弘常務取締役は当時の様子を振り返る。「『きなこ餅』が出来た時、実は私も“これが米菓と言えるのかな?と思っていた。最初の半年は1日100ケース以下の出荷だった。でも、2年後には当初の4倍以上のご注文をいただき、生産が追いつかないほどになった。どこまで売れるのか、毎日が楽しみだった」。

 なぜ『ふんわり名人』は急激に売れるようになったのか? 営業を担当する小熊豊太常務取締役によれば、「2006年から芸能人が好きなお菓子として相次いでマスコミで紹介してもらうようになったことで認知度が上がったことが大きい。流通に対して営業的アプローチが非常にしやすかった。2007年4月に若者向けの食べきりサイズをCVSで発売したことで売上が大きく伸びた」という

【続きは5477号・2020年秋季特別号30頁へ】

 

写真=星野一郎会長(写真上)は、「『ふんわり名人きなこ餅』は発売以来、不動のブランドNo.1。食感も味もはるかにレベルアップしている」と最新パッケージを手に胸を張る。