トップはかく語りき (株)ギンビス 代表取締役社長 宮本 周治 氏 ①(全4回)

100年ブランドを目指す

 創業以来一貫して焼き菓子にこだわり、品質第一主義で、『アスパラガス』『たべっ子どうぶつ』『しみチョココーン』など数多くのロングセラーを抱え、地位を確立してきたギンビス。昭和5(1930)年5月5日、宮本芳郎氏が自身の24歳の誕生日に「宮本製菓工場」を創業して以来、昭和23(1948)年に「銀座ベーカリー」、昭和49(1974)年に「ギンビス」と社名を変え、今年で90周年を迎えた。そこで、3代目の宮本周治社長に、これまでの90年を振り返り、ブラッシュアップを続ける主力ブランドの最新動向と戦略、そして100周年に向けた思いを語ってもらった。

 

プロフィール

 みやもと・しゅうじ 1973年5月28日東京都生まれ、47歳。中学卒業後、米国にわたりニューヨークミリタリーアカデミー卒業。フランクリンピアース大学に入学し、3年時にサフォーク大学に編入。卒業後、1997年に香港・四洲集団有限公司入社。1999年に株式会社ギンビス入社、2014年に代表取締役社長に就任。趣味は体を鍛えることと空手。2人の息子とともに週1〜2回極真空手の道場に通い、一緒に稽古に励んでいる。最近は健康管理のため、家の周りを走るようにしている。

 90周年を迎えた心境を聞くと、宮本社長は開口一番、感謝の言葉を口にした。

 「創業者の宮本芳郎・須美子夫妻、先代の宮本隆司社長、多くの先輩方や社員、そしてお客様、卸や小売の取引先、包材や原材料を安定供給して下さる皆様の存在があるからこそ、ここまで続けてこられた。厚く御礼を申し上げたい」。

 周治社長にとって、創業者の芳郎・須美子夫妻は祖父・祖母、先代の隆司社長は父にあたる。戦前から家族が築いてきたギンビスのオリジナリティーと創業理念を大切に守り続けながら、その眼差しは早くも“100周年”に向けられている。

 「90周年は一つの節目であり、新しいスタート。これからの10年は、100周年に向けて力強いステップを踏んでいく。お菓子を通して世界の平和に貢献していくことをさらに形にしていきたい」と、その思いは壮大だ。

 世界では新型コロナウイルスが蔓延し、我慢を強いられる生活を余儀なくされている。こうした中、ごく当たり前の普通の生活が一番平和であることを、誰もが痛感していることだろう。

 「皆の気分が落ち込んでいる時こそ、お菓子業界の役割、存在価値は大きくなる。自分達が作ったお菓子で心が満たされ、ハッピーになる。癒しを与え、皆が元気になって、幸せな笑顔になって欲しい」。

 これまでも、“お菓子に夢を!”という同社の創業以来の理念は、決して変わることがなかった。これからの時代はさらに、心が豊かになる情緒的な面がますます重要視されていくと、宮本社長は考えている。

 そして、美味しくて健康的な日本のお菓子を、胸を張って「世界へ発信していきたい」という。状況は整ってきた。食品やお菓子の輸出については、これまで個々の会社の企業努力で海外進出を果たしてきたが、ここ1~2年は、国を挙げての取組みが加速している。

 「これは大きな力になる。日本は車や家電が輸出の中心だが、これからは食品やお菓子になっていくだろう。日本は長寿国で衛生観念が高いので、日本の食品が体に良いことは証明されており、説得力がある。世界に向けて、もっともっと羽ばたいていける」と期待は大きい。

 そこで一番重要なのは“人”だと、宮本社長は言い切る。

 「美味しいお菓子を作っても、届ける人がいなければ広がっていかない。当社も、新型コロナウイルスで大変な状況の中、工場がある中国・汕頭の駐在員が頑張ってくれているからこそ、商品を届けることができる」。

 製品を根付かせるのは、マンパワー。「日本の食品やお菓子がグローバルになるには、世界で活躍できる人材を育成することが絶対的に必要」だと、心に刻んでいる。

 ギンビスは、数多くのロングセラーを抱えている。1968年発売の『アスパラガス』は52年目、1978年発売の『たべっ子どうぶつ』は42年目、2003年発売の『しみチョココーン』は17年目を迎えた。

 この3大ブランドを「100年ブランドに育てたい。そうなれば一つの文化、国民的なお菓子になる」と宮本社長は考えている。

 親子3世代が食べているお菓子は、そう多くはない。『アスパラガス』『たべっ子どうぶつ』などは、そんな数少ないお菓子の一つ。しかも、「今でも伸びている」というのだから驚きだ。

 「ロングセラーにあぐらをかくことなく、何を突き詰めるか、何に価値を見出していくかを常に考えている。唯一無二のブランドにしていかなくてはいけないし、1年1年の積み重ねが大切。これまでもコツコツと地道にやってきたからこそ、今がある」。

 長年にわたる蓄積がありながら、追求し続ける姿勢を崩さず、さらに新しい物を創り出そうという気概に溢れている。親子3世代だけでなく、その後の4世代目にも食べてもらうことを念頭に置いている。

(続く)

【予告】

(第2回)身近なお菓子から摂れるプロテイン

(第3回)3大ブランドに3製品加えた6本柱

(第4回)気持ちがほんわかとする味