ブルボン “雪室”チョコレートで世界へ

魚沼工場でブルボンが変わる!?

名称:株式会社ブルボン 魚沼工場 所在地:新潟県魚沼市十日町1687番地8 敷地面積:約60,000㎡(18154坪)

延べ床面積:約8,800㎡(2667坪)※延べ床面積は第一期工場棟分 構造:鉄骨造 2階建

 来年創業100周年を迎えるブルボン。その将来を担う重要な試金石となるのが、昨年5月に一期目の工事が完了し、竣工・稼働した『魚沼工場』である。新潟県内で10工場目となる同工場は、あらゆる意味で画期的で、革新性にあふれている。とはいえ、創業から現在に至るまでの企業理念や、同社の特徴的なものづくりの延長線上にあることも確かだ。魚沼工場への期待や思いを、代表取締役社長の吉田康氏に話を聞いた。吉田社長は、同工場を通じて雪国発の新しいチョコレートを世界に問いたいと考えている。

 

 

 

 

吉田康(よしだ・やすし)社長プロフィール

1955年5月生まれ 広島市出身

1979年 名古屋大学農学部卒業

 同年 北日本食品工業株式会社

      (現ブルボン)入社

1989年 常務取締役

1991年 代表取締役専務

1992年 常務取締役

1996年 代表取締役社長就任

他の生産拠点とは一線を画す

 八海山をはじめとする越後三山はもとより、水無川のほとりや周囲の田畑は白いものですっかり覆われている。例年の半分以下の積雪量だというが、春まだ浅い3月上旬の南魚沼に来てみると、ここが雪国であることを肌で感じることができる。 

 そんな豪雪地帯にあるブルボンの魚沼工場は、新潟出身の田中角栄元総理大臣の銅像がある上越新幹線「浦佐駅」からほど近い『水の郷工業団地』に建設された。すぐ隣にはマルコメのグループ会社である『魚沼醸造』の工場があり、その日本家屋的な特徴のある建屋を目印にすれば、新幹線から確認することもできる。それくらい周囲は山や川といった自然に溢れている。

 ブルボンの新潟県内の製造拠点は、柏崎をはじめ、上越、村上など9工場あるが、そのいずれもがお菓子など食品製造に適した環境に恵まれている。日本海にほど近い、どちらかというと雪の少ない地域にあることも特徴だろう。

 一方の魚沼工場は、澄んだ空気や良質な水を得られるという意味では既存工場と同じだ。しかし内陸の豪雪地帯にある点で大きく異なる。

 地理的な違いなどについて吉田社長に聞いてみると、「イタリアやスイスには多少あったりもするようですが、あんなに雪の多いところにお菓子の工場をつくるのは珍しいことです」と教えてくれた。

 しかも新潟県内の内陸部はこれまで避けてきた場所だったという。「先代に相談していたら反対されたかもしれません」と吉田社長が言うくらい、魚沼工場はこれまでの路線とは一線を画す存在だといえる。

3月上旬の南魚沼。車道と歩道以外は雪に覆われている

原料の品質を変えられる!

 それにしても、なぜこれまで避けていた内陸の豪雪地帯を選んだのだろうか? 

 その大きな要因となったのが「雪室」の活用だ。「雪室で原料の品質を変えられることが分かったからです」と吉田社長はいう。

 「雪室」とは、冬に降り積もった雪を利用して食品を保存する天然の冷蔵庫のことで、雪国ならではの知恵と工夫から生まれたシステムだ。電気冷蔵庫が普及する昭和30年代あたりまで雪国各地で活用されていた。家庭でも冬場の野菜などの保存手段として利用され、独特の食文化を育んできた。現在は電力エネルギーに頼らないクリーンエネルギーとしても注目されている。

 雪室の低温多湿な環境においては、野菜の澱粉は糖に変わるために甘みが増したり、肉のたんぱく質は分解され旨み成分のアミノ酸が増加したりするという。温度変化が少ないことも、その要因だと考えられている。

 一般的な電気冷蔵庫は、設定温度に対してプラスマイナス2~3℃を繰り返す仕組みになっており、わずかではあるが庫内に湿度変化が生じる。

 対して雪室の場合は、温度を常に一定に保つことができるので、原料へのストレスが少ない。加えて高湿度を保てるため、乾燥を抑え鮮度を保持できる。それが品質の変化・向上につながるという。

 魚沼工場は、その雪室施設を導入している。それゆえに豪雪地帯が選ばれたわけだ。現段階では、チョコレートの原料となるカカオ豆を雪室のシステムで貯蔵する。

(続きは23年春季特別号8頁へ)

自然(雪)を利用した新しい取り組み

 ブルボンの魚沼工場は、工場棟と原料保管倉庫、雪室棟の三棟構成になっている。2021年6月に着工し、2022年5月に竣工。

 現在は「チョコレート原料」の生産と、「カカオ豆」を雪室に貯蔵して品質向上に活用している。また二期目工事が進行中で、こちらの工場棟には製造ラインが入る予定だ。

 同工場の特徴は、なんといっても雪室を利用していることだろう。雪室は大きくわけると2つのタイプがある。貯雪庫からの冷気を送る「空気型」と、かまくらのように雪でおおわれた部屋で冷やす「氷室型」がそれだ。魚沼工場は、製品化されるものは前者で、実験・開発用が後者になる。

 魚沼工場の空気型(図参照)は、貯雪庫に満載にされた雪の下に風洞があり、ここからトンネル内で熱交換して冷やされた空気がカカオ豆の下に入り、蓄層される。2~3℃、湿度90%前後の空気が空間を満たす。そこで上昇した冷気を再度貯雪庫に戻し、循環させている。循環させるときにカカオ豆の臭気などを空気と一緒に戻し、雪をフィルター的に使うことで新鮮な空気にして戻していることも特徴だろう。

 それゆえに貯める雪は綺麗な品質が求められる。

 雪には大気中のほこりや塵が含まれる。土の上に積もった雪よりもアスファルトに積もった雪、それよりも清らかな雪が望ましい。豪雪地帯だからといって雪は取り放題、とはいかないようだ。

 また、雪の質は、できるだけ水分を多く含んだ重いものが適している。パウダースノーではなく、シャーベット的な密度のある雪のほうが、雪室に貯めるには都合がいい。

 ただ吉田社長が言うには、パウダースノーがまったくダメというわけではない。水分を嫌う原料などには合う可能性もあり、今後の課題として雪の質と原料の相性を検証していきたいと話す。

 貯雪庫に雪を入れるのは、毎年2~3月頃になる。魚沼工場の空気型は、300トン入る。これで通年をまかなえるそうだ。

 雪室の運用についてはまだ始まったばかりだが、期間や湿度によっても素材の味が変わってくることが分かっており、そのあたりの裏付けを検証中だ。今後は企業の使命として安定供給できる技術を確立しつつ、他の工場への展開も視野に入れて研究を進めるという。

▲雪室棟の貯雪庫には開発ラボが併設される

周囲の建築物の多くは、雪が積もらないように屋根を傾斜させているが、工場棟と原料倉庫棟の屋根は平面に設計されている。物流に支障がないよう、雪が落ちてこないようにしている。そのため、建物は積雪荷重を高めにつくられている

雪国生まれのチョコレート

 

 一般的にカカオの含有率が高いハイカカオのチョコレートは、苦みや渋みを感じさせるものが多い。

 しかし魚沼工場の雪室で熟成させたカカオ豆を使用する『雪室ショコラ』シリーズの“同熟成カカオ73”は、ハイカカオチョコレートにもかかわらず後味がスッキリとして食べやすく仕上がっている。一方のミルクチョコレートの“まろみミルク”も、ミルクとカカオの両方のテイストを活かした風味となっていて、個性的ながらバランスがいい。

 いずれも形状が薄い六角形で、舌の上で溶かしやすいのも特徴だろう。そのためチョコレート本来の味を堪能しやすい。形は雪の結晶をイメージしたもので、「あたたかい時間」「やわらかい季節」「きらめく朝」などをテーマに、6種類のデザインになっている。それぞれにストーリー性を持たせるなど、非常に凝った作り込みだ。このあたりにも同品にかけるブルボンのこだわりを感じさせる。

 現在は新潟県を中心に販売しているが、ゆくゆくはインバウンド需要を含めた展開を予定している。そのためには、雪室そのものの認知度を上げていくことも課題のひとつになりそうだ。

創業時からの災害への思い


 関東大震災により地方への菓子供給がストップした窮状をみて創業したブルボンは、新潟県中越沖地震や東日本大震災など、災害時に救援物資としてお菓子を届けたほか、ラインアップにも『缶入クラッカー』(写真上左)をはじめとする保存食品や『天然水sonaLno500ml』(写真上右)といった備蓄用の水を用意する。

 日本製素材を用いたマスクを2021年3月からブルボンオンラインショップで一般向けに販売。変異ウイルスなどマスクの安全性が問われるなか、同年6月にはマスクの品質や性能に関する公的規格「JIS T9001」が制定された。その一般マスクの規格に同社の『50枚入不織布マスク』は適合。性能への不安を解消し、安心で快適な日常生活に寄与してきた。

 コロナ禍で再評価された菓子食品自動販売機の『プチモール』(写真下)。同社のお菓子をはじめ、カップ麺やパンなどを販売しているが、対面接触を避けた食品販売ツールとしての機能が再度見直され、環境整備を図った。

SDGsへのアプローチ

 ブルボンは、関連するサステナブルな取り組みにも積極的だ。

 2024年問題としてトラックのドライバー不足が懸念されているが、いちはやく環境に優しい鉄道や船舶によるモーダルシフト(エコ輸送への転換)を推進し、鉄道での輸送と大型コンテナ化を図ってきた。2020年には、「プチ」シリーズのキャラクター「プチクマ」をデザインした貨物鉄道用コンテナも運用を始めた。

 取り組みの開始は早く、国土交通省ならびに公益社団法人鉄道貨物協会が実施する「エコレールマーク」活動に賛同し、エコレールマーク取組企業認定を2006年に受けた。これは500km以上の陸上運送のうち、鉄道の利用比率が数量または数量×距離のいずれかで15%以上であること、もしくは年間の鉄道利用数量が15000トン以上または数量×距離が1500万トンキロ以上であることが要件になる。

 同年12月には「イオン水」「天然名水出羽三山の水」「プチ」シリーズ等で「エコレールマーク認定商品」を受け、2020年7月には「ルマンド」を含む「オリジナルビスケットシリーズ」で新たに認証を取得。現在は40品近くにエコレールマークを掲載するに至っている。

 他方、「贅沢ルマンド」シリーズのパッケージをプラスチックフィルムから紙を使用したパッケージに変更。これにより年間で約35トンのプラスチック使用量削減を見込んでいる。

 このほか、RSPO認証取得など、積極的に持続可能な社会に向けた活動を推進している。